大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1039号 判決 1981年9月25日
原告(反訴被告)
鷲田芳株式会社
右代表者代表取締役
鷲田芳造
右訴訟代理人
後藤三郎
右本訴復代理人兼反訴代理人
大西裕子
被告(反訴原告)
株式会社関商店
右代表者代表取締役
関進
被告
関進
右両名訴訟代理人
児玉憲夫
右同
石川寛俊
主文
一 原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、被告株式会社関商店(反訴原告、以下「被告会社」という。)に対し、金一九二万七、五二〇円と、これに対する昭和五二年三月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告の本訴請求及び被告会社のその余の反訴請求はいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、本訴について生じた部分は原告の負担とし、反訴について生じた部分はこれを一〇分し、その九を被告会社の負担とし、その余は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判<省略>
第二 当事者の主張
一 本訴事件
(請求原因)
1 当事者
原告は合成織維製品の売買を業とする株式会社であり、被告株式会社関商店は合成繊維、原糸、織物の卸販売を業とする株式会社であり、被告関連(以下「被告関」という。)は被告会社の代表取締役である。
2 原告は、一般輸出入業務を営む訴外瀧定株式会社(以下「訴外瀧定」という。)の大阪支店からテヘラン(イラン国)向輸出商品として注文を受けて、昭和五〇年七月一八日から昭和五一年三月八日まで、被告会社との間で、別紙明細表記載<省略>のとおり輸出用合繊織物の売買契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
3 不完全履行
(一) 被告会社は本件契約に基づいて別紙明細表記載の引渡日に同表記載の商品を神戸港の訴外瀧定指定倉庫に搬入し、右商品はその後テヘランに到着した。
(二) 原告は別紙明細表記載の代金支払日に被告会社に対し同表記載の代金を支払つた。
(三) テヘランの輸入業者であるサッソーニ・トレーディング・カンパニーは現地の個々の業者に梱包されたまま右商品を売却し、右業者らにおいて開包して検査したところ、左記のとおりの瑕疵の存在が確認された。
記
(1) 昭和五一年七月二二日ころ発見
別紙明細表7の商品 柄の小さいもの混入
同表8、9の商品 柄違い反混入
(2) 同年一一月ころ発見
同表6の商品 長さ不足反が多数混入
同表12の商品 柄違い反混入
(3) 同年一二月ころ発見
同表13の商品 柄違い一五反混入、柄の大小反あり
同表15の商品 柄違い一五〇反混入
同表16の商品 柄違い六八反混入
同表18の商品 柄違い三六反混入
4 瑕疵担保責任
前記瑕疵は隠れたる瑕疵である。
<中略>
(再抗弁)
1 特約による原告の検査義務免除
(一) 原告、被告会社間の本件契約の内容は、原告が注文した商品を、被告会社が調達し、かつ神戸港の訴外瀧定の指定倉庫に、輸出用梱包済商品として搬入することにより原告に引渡すという約定であつた。右契約に基づき、原告は、輸出向生地について予め使用糸(縦、横)を指定し、柄、色番、数量を製織指図書、加工指図書をもつて被告会社に発注し、被告会社は、取引先のいくつかの機屋に使用糸を支給して生機を織らせ、一旦その全部を被告会社に納入させた後、訴外北陸精染株式会社(以下「訴外北陸」という。)に染色加工させる。染色後、色むら等につき財団法人日本染色検査協会の検査を受け合格したものは訴外北陸が訴外双葉包装株式会社(以下「訴外双葉」という。)に直接送つて、商品はそこで輸出用に梱包され、シールを貼り封印される。ここで再びその外装について、右財団法人日本染色検査協会の検査を受け、合格すれば、訴外双葉はパッキングリスト及びシッピングサンプルを作成し、その両方を被告会社に、またシッピングサンプルは一〇数組を原告に送るとともに、梱包済商品をトラック便で神戸港の訴外瀧定指定倉庫に直接搬入するのである。
(二) 本件契約は、国際間商品売買に連結された国内商品売買であり、原告は、被告会社から注文商品の引渡しを受ける時点(神戸港の指定倉庫への搬入時)において、既に輸出用梱包が完了してしまつているから、現実の内容物については、一反一反の検査は勿論のこと、抜取り検査すら、商品流通、輸出取引を阻害することになり、最早為しえない状態である。
(三) 従つてテヘランの業者によつて初めて瑕疵の発見が可能になり、それから原告らに瑕疵の通知が届くものであることは、被告会社も知悉していた。そこで、本件契約においては、原告の検査はシッピングサンプル及びパッキングリストと加工指図書を照合するをもつて足り、その余の検査義務は免除され、テヘランの業者による検査により瑕疵の存在が確認されたときは、原告がテヘランから瑕疵の存在について通知を受け次第直ちに被告会社にその旨通知するをもつて足るとの黙示の合意が存していた。
(四) 原告は、訴外双葉から送られてきたシッピングサンプル及び被告会社から送られてきたパッキングリストと加工指図書を照合して一応合致していることを確認しており、テヘランから通知のあつた前記瑕疵の存在についても、直ちに被告会社に通知した。
<以下、事実省略>
理由
第一本訴事件について
一請求原因1、2項及び三項(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。
二瑕疵の存在について
<証拠>を総合すると次のとおりの瑕疵の存在を認めることができ、後記に付加するほか、右認定に反する証拠はない。
原告は、被告会社間の取引商品には次のとおりの瑕疵がある。
1 別紙明細表 柄の小さいもの混入
7の商品 二、七三三ヤール
2 同表8、 柄違い反混入
9の商品 二万九、〇七四ヤール
3 同表6の商品 長さ不足反混入
九〇パーセント程度
4 同表12の商品 柄違い反混入
四一反
5 同表13の商品 柄違い反混入
一五反
6 同表15の商品 柄違い反混入
一四〇反
7 同表16の商品 柄違い反混入
六八反
8 同表18の商品 柄違い反混入
三六反
柄の大小については瑕疵にあたらない旨の証人関憲一の証言は、<証拠>に照し措信しない。
三抗弁について
本件取引が商人間の売買であり、被告会社は別紙明細表記載の商品を同表記載の引渡日に神戸港の原告及び訴外瀧定指定倉庫に納入し、原告は右商品を受取つたのにもかかわらず、遅滞なく検査し直ちに瑕疵あることを通知しなかつたことは、当事者間に争いがない。
四再抗弁1項について
<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ<る。>
1 原告、被告会社間の本件契約の内容は、原告が注文した商品を、被告会社が調達し、かつ神戸港の訴外瀧定の指定倉庫に、輸出用梱包済商品として搬入することにより原告に引渡すという約定であつた。右契約に基づき、原告は、輸出向生地について予め使用糸(縦、横)を指定し、柄、色番、数量を製織指図書、加工指図書をもつて被告会社に発注し、被告会社は、取引先のいくつかの機屋に製織させ、一旦その全部を被告会社に納入させた後、訴外北陸に染色加工させる。染色後、長さ、巾、色柄、傷の状態につき、財団法人日本染色検査協会の検査を受け合格したものは訴外北陸が訴外双葉に直接送つて、商品はそこで輸出用に梱包され、シールを貼り封印された。ここで再びその外装について、右財団法人日本染色検査協会の検査を受け、合格すれば、訴外双葉はパッキングリスト及びシッピングサンプルを作成し、その両方を原告に送るとともに、梱包済商品をトラック便で神戸港の訴外瀧定指定倉庫に直接搬入する。
2 本件契約は、国際間商品売買に連結された大量の国内商品売買であり、原告は、被告会社から注文商品の引渡を受ける時点(神戸港の指定倉庫への搬入時)において、既に輸出用梱包が完了してしまつていること。
3 右財団法人日本染色検査協会の各検査において、別紙明細表6ないし9、12、13、15、16、18の各商品は合格したこと。
4 原告は、シッピングサンプル及びパッキングリストと加工指図書を照合して、右商品について合致していることを確認したこと。
原告が引渡を受けた商品を検査することは、封印した輸出用梱包を開梱しなければならず、開梱すれば更に検査を受け、再度梱包し直さなげればならないこと。
6 被告会社は前各項の事実を知悉していること。
判旨原告は、本件契約においては、原告の検査はシッピングサンプル及びパッキングリストと加工指図書を照合するをもつて足り、その余の検査義務は免除され、テヘランの業者による検査により瑕疵の存在が確認されたときは、原告がテヘランから瑕疵の存在について通知を受け次第直ちに被告会社にその旨通知するをもつて足るとの黙示の合意が存していたと主張するけれども、証人鷲田晃輔の証言によると、先進国であれば第三者の専門の検査機関があり、問題の解決に役立つが、発展途上国イランにはそのような機関もないこと、従つて第三者のバイヤー等に依頼することになるが信用できないと考えていたことが認められ、これからすると被告会社は尚更そうであることが推認せられることを考えると前記認定事実をもつてしても未だ右主張事実を推認することはできず、その他右主張事実を認めるに足る証拠はない。
<後略>
(林繁 笠井達也 渡邊了造)